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学校をズル休みして近所の海辺へ行ったあの日、
制服姿の少女が一人、音楽を聴いていた。
不器用な会話と、波の音。
潮風が髪を優しく揺らす。
彼女の名前は「八月一日(ほずみ)」というらしい。
僕は彼女にいくつかのCDを貸した。
受け取ってくれるかは不安だったが、
彼女はその時初めて口元を緩め、少しだけ微笑んだ。
ある日の夕方、彼女はCDをまとめて返してくれた。
僕が「また貸すよ」と言うと消え入りそうな声で
「ありがとう」とだけ答えた。
彼女の細い影が揺らぐ。
少し、胸騒ぎがする。
次の日から僕の前に彼女が現れることはなかった。
海辺にも、学校にも、彼女の姿はなく
僕以外の誰も、彼女を覚えていなかった。
彼女は本当に存在していたのだろうか。
彼女と過ごしたあの日々は、幻だったのだろうか。
そんな僕も気付けば大人になった。
薄暗い部屋の中、パソコンの青い光に照らされている。
––––あ、ブルースクリーンだ…!なんでこんな時に…。
画面にぼんやりと影が浮かぶ どこかで見たような姿…。
部屋の中を探してあの"ゲーム"の箱に彼女の姿を見つけた。
大人になった僕は今、
記憶の片隅に残る彼女のことを思い出している。
Processing memory fragments...
―ある日、パソコン画面がブルースクリーンになった。
文字列の上で、青髪の少女がちらつく。
「ホズミ?」──僕はあの夏を思い出した。
Accessing audio source: hozumiβ.mp3
海辺でCDを貸し合い、音を分け合った日々。
CDプレイヤーがひとりでに動き、液晶に文字が浮かぶ。
イヤホンから声がした。
「私を探して」
Transmission initialized...
―再生ボタンを押した瞬間、世界が反転した。
光が走り、すべての音が遠ざかっていく。
Connection established to β_world.
―接続完了。
無機質な部屋で、少女が微笑んでいた。
水色の髪、夕陽色の瞳。
僕はホズミだと思った。
Data mismatch detected.
……何も覚えていないのか。
僕が困惑していると、彼女は不思議そうに首を傾げた。
どうやら姿形は同じでも、彼女とは違う人間のようだった。
Scanning visual sensors...
―瞳がこちらを見た。
その奥に、知らない世界が揺れていた。
Rendering motion layer...
―風が通り抜けた。
髪が揺れて、世界が息をした。
-Epilogue-
Memory reconstruction complete.
Next protocol: Locate the original Hozumi.
―声の主を探す旅が、ここから始まる。